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最終更新日:2026年1月9日

調査研究ノートvol.28 昭和43年 四国山地縦走民家調査

調査研究ノート

昭和43年(1968)7月30日から8月3日にかけての5日間、日本建築学会四国支部民家研究調査委員会のメンバーが、四国山地を縦走する民家調査を敢行しました。メンバーは、山本忠司・池田秀夫・市原輝士・上野時生(香川)、四宮照義(徳島)、松村正恒(愛媛)、上田虎介(高知)といった面々。阿波池田から大川・本川・久万を経て大洲へと抜け、そこから内子・奥道後を経て西条に至るルートを、当時としては珍しい無線付タクシー2台に分乗し、気になる民家を訪ねて住人と話し、スケッチし、写真に収めました。

写真1

メンバーはそれぞれ、民家への関心と思いを抱いていました。主に写真を担当した上野は、東京での建築ジャーナリズムから帰郷して昭和33年(1958)に雑誌「四国建築」を発行、「長い年月を経て沁み込んだ先人の血と汗と苦痛に耐えた息吹」を民家に見出し、多くの号と頁を割いて四国の民家を紹介してきました。市原は、香川を代表する郷土史家の立場から、民家への関心を深めていました。また松村は、戦前に民家研究の先駆者である今和次郎のフィールドワークに参加した経験をもち、自らも愛媛の民家を念頭に置いた住宅の設計に取り組んでいました。四国山地の縦走調査行は、彼らの共同活動の総決算という意味をもっていたのです。そこには高度成長の波に洗われ、今にも消え去ろうとしている四国の民家への熱い思いと危機感がありました。

この調査行で撮影された民家には、修復によってきれいに整えられた文化財とは異なり、その土地の気候風土と生活の積み重ねがしっかりと刻まれた、「生きた姿」を見出すことができます。太いつっかえ棒に支えられ、障子にビニールを貼られた民家は、それでも分厚い茅葺屋根が堂々として、軒下には農具や漁具などの生活道具が置かれ、山での豊かな生活を物語っています(写真1)。山から引かれた竹の水道(写真2)や、雑木がくべられた囲炉裏の上に吊られた桶(写真3)、現代的な生活道具が混ざり始めた神棚(写真4)、巨岩が転がる河原にせり出した掛けづくりの家々(写真5)などは、四国山地で暮らす人々の存在を雄弁に物語ります。

「本当に皆が熱心だった。四国の民家の研究調査というよりも、それは私達の一人一人の民家への青春賦だった」(上野)。常設展示「建築家・山本忠司 風土に根ざし、地域を育む建築を求めて」(1月26日〜4月7日)では、建築写真家・上野時生の写真を通して、山本に大きな影響を与えた四国の民家調査についてもご紹介します。

(学芸課長 佐藤 竜馬)

写真2
写真3
写真4
写真5

写真はいずれも上野時生撮影

展覧会情報 京都工芸繊維大学美術工芸資料館連携事業
建築家・山本忠司
風土に根ざし、地域を育む建築を求めて

平成31年1月26日(土)〜4月7日(日)

会場

常設展示室4・5

ミュージアムトーク

2月9日(土)、3月16日(土) 各13:30〜

建築ツアーも開催予定(詳細はホームページに掲載します)