WEBマガジン

最終更新日:2026年1月9日

祭礼百態―香川・瀬戸内の「風流」

特集

神々や見物人を喜ばせる趣向 —「祭礼風流」をキーワードにして

香川県の獅子舞、奴は全国屈指の数と多様性を誇り、また瀬戸内地域における太鼓台も注目されています。瀬戸内地域や香川県を代表する祭礼・民俗芸能として、太鼓台や獅子舞、奴は欠かせないものとなっていますが、こうした華やかなお祭りはどこから生まれてきたものでしょうか。

日本民俗学の先達柳田國男は、「日本の祭」(1942年)の中で「祭り」と祭礼を区別しています。「祭り」とは、神々を迎え、祭り、神人共食(神への供え物をおろして人も食べる)して、神を送る行事のことをいいます。そこに見物人が登場し、神々だけでなく見物人を喜ばせる趣向である「風流」が広まりました。柳田は、風流が進んだ祭りのことを「祭礼」と呼び分けています。現在、地域社会で展開する趣向を凝らした太鼓台や舟だんじり、獅子舞、奴などの「祭礼風流」は、見物人の目を意識しながら、担い手たちが趣向を凝らし進化してきた結果といえます。

石清尾八幡宮祭礼図巻 上巻 (部分) 当館蔵

高松城下町祭礼石清尾八幡宮の祭礼風流

江戸時代には各藩の城下町でも祭礼風流が展開します。高松藩では2代藩主松平頼常以来、藩主の年賀、または入部後初めての祭礼の時のみ特別に賑やかな出し物をしていました。その後、5代藩主松平頼恭が入部した元文5年(1740)の8月の祭礼に、賑々しく「五段続き、作り物、踊り」などを出して、「島国に似合わぬ大祭礼なり。江戸三王祭(註)、氷川明神祭にもさしてかわらぬ」と頼恭に言われたものの、次の在国時には例年通りの小祭りであったため、頼恭は祭りの経費について、それまで石清尾八幡宮へ納めていた祭礼銀を町方で使うよう沙汰し、毎年、「小踊り・作り物・櫓尻その品をかえ一品づつ、町々が出す」ことになったと伝えています(「小神野筆帖」)。(註)山王祭のこと

金毘羅霊験記抜粋御会式頭人御神祭出仕図(部分) 当館蔵

金毘羅大祭の奴風流など

江戸時代の後半に発行された金毘羅(琴平町)の金毘羅大祭図には、傘や鳥毛などの奴風流が目立って描かれています。こうした奴の奉納は現在も行われており、かつては県内各地から大祭の行列に加わりました。近世・近代においてどのような仕組みでこうした奴奉納が行われたかはよくわかっていませんが、今も県内各地で「昔は金毘羅さんのお祭りに行っていた」と伝える奴組が多く見られます。

金毘羅大祭の行列の中心は神の依坐であるトウシの渡御ですが、江戸時代後半の行列図には多数の奴とともに、「代のり、願のり、えんま馬」などと記された馬上の人や曲乗り、馬上の仮装の人も描かれています。今は失われた馬上の風流も行列を彩っていたことがうかがえます。

小豆島の祭礼と桟敷文化

小豆島の神社には桟敷が整備されているところがあります。小豆島町の亀山八幡宮をはじめ、土庄町の富丘八幡神社、伊喜末八幡神社などに見られます。これは主に秋祭りに出る太鼓台を見るためにつくられています。太鼓台も「返し」と呼ばれる芸や集団演技ともいえる「土俵舞」など、見物人を意識した動きをします。また、毎年、世間で流行したモチーフを人形につくり太鼓の上に乗せるつくり太鼓を奉納する地区(表紙①)もあります。

亀山八幡宮石様敷と太鼓台奉納
伊喜末八幡神社の「土俵舞」

「御大典記念」の作り物と祭礼

今春は平成から令和へと、天皇の代替わりがありました。近代以降の祭礼風流に影響を与えたものとして「御大典記念」の作り物があります。人形や屋台を飾り立て、地元の神社などに奉祝のお練りが行われました。その時の出し物を毎年の祭礼に出すようになったところもあります。三木町の天野神社の大獅子奉納は昭和3年(1928)の昭和天皇の「御大典」を契機に奉納されるようになったといいます。また、さぬき市の津田石清水神社に奉納される踊りだんじりは、大正4年(1915)の大正天皇の「御大典記念」に大阪で製作されたことがわかっています。

天野神社御大典記念大獅子(天野神社大獅子保存会提供)

獅子舞の風流化

もともと獅子舞は、神社の祭礼に一つ、宮獅子や当番獅子と呼ばれるものが奉納され、行列に加わっていたと考えられています。県内の獅子舞関係の記録を見ると、近世後半から近代にかけて、各神社で爆発的に増えていったことが知られています。数年に一度の当番の年だけ獅子舞を奉納するということに飽きたらず、各組や自治会などで新たに獅子を作り、毎年奉納するようになっていったようです。こうした獅子を県内では寄進獅子と呼んで当番獅子とは区別するところもありました。

また、昭和時代になると、各地で獅子舞大会が開催され、県内の獅子舞が集まり技を競うようになりました。技の工夫や道具立て、獅子頭や油単にも趣向が凝らされ、獅子舞の風流化は一段と進みました。

祭礼文化の現在と未来

時代を通じて、伝統的な出し物や芸を守ってきた地域もあれば、社会の変化や見物人の嗜好を読み取り、趣向を凝らした地域もありました。また、東日本大震災以降、地域の絆としての祭礼文化に注目が集まったり、少子高齢化の中で今後地域の祭礼や民俗芸能をどのように伝承していくかが、大きな課題となっている地域もあります。すでに地域の伝統文化を守るため、地域を守るための活動を始めているところもあります。ぜひ、本展覧会で、地域に伝わる「祭礼風流」の多様性や個性を知っていただくとともに、未来の地域文化について考える機会としていただければ幸いです。

(瀬戸内海歴史民俗資料館長 田井 静明)

展覧会情報 特別展 祭礼百態—香川・瀬戸内の「風流」

県立ミュージアム史上最大規模の県内外約100ヶ所から出陣・公演。

8月3日(土)〜9月7日(土)

開館時間

9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)
※8月10日〜17日と8月中の土曜日は20:00まで開館

休館日

8月5日・19日・26日、9月2日

観覧料

一般1,000円
前売・団体・瀬戸芸パスポート提示(1回限り)800円
※高校生以下、65歳以上、身体障害者手帳等をお持ちの方は観覧料無料

関連イベント

※8頁インフォメーションもご覧下さい。

ミュージアムトーク

8月3日(土)、17日(土) 各13:30〜

申込不要

場所

2階 特別展示会場(参加には観覧券が必要です)

ナイトトーク

8月10日(土)〜16日(金) 各18:30〜

申込不要

場所

2階 特別展示会場(参加には観覧券が必要です)