調査研究ノート 建築家と写真
建築家は何を見つめていたのでしょうか。このたび、当館で建築家・神谷宏治(1928〜2014)の資料をお預かりすることになりました。ここでは、日本を代表する建築家・丹下健三(1913〜2005)による《香川県庁舎》の実質的な建築に携わった神谷宏治、そして郷土の建築家・山本忠司(1923〜1998)が残した写真資料から読み解きます。
神谷は、丹下研究室のメインスタッフとして、《香川県庁舎》(1958年竣工)の仕事に携わりました。香川との関わりはその後も続き、晩年には当館で開催された展覧会「丹下健三 伝統と創造―瀬戸内海から世界へ」の実行委員会の総括を務め、2014年に他界しました。
香川県大川郡に生まれた山本は、《香川県庁舎》の建設では香川県の営繕課(のちの建築課)の担当職員として神谷と協働し、日本建築学会賞(作品)等に選ばれた《瀬戸内海歴史民俗資料館》(1973年竣工)など戦後香川を代表する建築を世に送りました。
2人は、膨大な写真資料も残していました。そこから見えてくることは、建物内部において人々はいかに佇み、くつろぎ、憩うのか、竣工後も追い続ける神谷のまなざしです。写真からは、建築が社会にどのように定位していくのかを見つめ続けようとする意志が感じられます。神谷は、1954年の《津田塾大学図書館》(1954年竣工)の撮影で、ガラス窓を壁と一体にすることで建物内部に陽光が差し込み、椅子に腰掛ける人々が読書する様子を収め、1998年の《香川県庁舎》の撮影では、猪熊弦一郎の陶板壁画《和敬静寂》を背景に、ロビーで椅子に座る人々が閲覧する様子を捉えていました。神谷が1958年も《香川県庁舎》を撮影していたことを踏まえると、設計した建物がどのように使われているか見続けていたことがわかります。
くわえて、建築の空間構成、つまりいかなる動線を辿り建物内部に進むのかを追う山本のまなざしも見えてきます。そこには、建物と周囲をひと続きのものにしようとする意志が感じられます。山本は、《瀬戸内海歴史民俗資料館》や《瀬戸大橋記念館》(1988年竣工)の撮影では、玄関口につながる階段や通路を収めていました。ニューヨークのビル街、あるいは郊外の住宅では、建物の周囲の交差点、車、通行人、畑、山の様子を写していました。
以上のように、彼らの写真資料から、彼らが建物だけに注目するのではなく、建物を使う人々のありようと建物周囲の環境に心を寄せていることがわかりました。
常設展「建築家たちの見た風景―写真を通した『まなざし』―」では、人々と建築との関係性や、建築それぞれが有する周辺の環境との関わりについて掴み取ろうとする彼らのまなざしを感じていただければ幸いです。
(学芸員 日置 瑠子)


展覧会情報 建築家たちの見た風景 — 写真を通した「まなざし」—
9月20日(金)〜12月15日(日)
場所
常設展示室2
開館時間
9:00〜17:00 ※入館は16:30まで
休館日
月曜日(月曜日が休日の場合、翌火曜日)
ミュージアム・トーク
10月19日(土)、11月24日(日) 各13:30〜