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最終更新日:2026年1月9日

調査研究ノートvol.31 絵画と文字×比喩と象徴メタファーとシンボル

調査研究ノート

日本語に限らず文字や言語には特定の意味が内包されながらも、私たちは社会生活を過ごすなかで繰り返し活用し、既往の意味に対して柔軟に加筆、修正を加えてきました。もちろん文字の持つ普遍性にこそ重要な意味があり、長い歴史とともにその解釈が変化する場合もあり得るでしょう。つまり文字および言語は、私たちが先人たちの遺産として受け継いではいますが、意味が固定的に制限されたわけではないのです。多様化する現代の日常生活において、文字の意味は複雑に変容し、過去の遺産としての文字あるいは言語だけでは表現しようとする内容が情報として充分に伝達されないという事態を少なからず招いてきました。高度経済成長期において急速に変化する社会情勢のなかで、迅速な情報共有を行うことが求められるようになると、このジレンマは、より簡潔な情報伝達の方法として既存の言語の簡略化を促し、文字の形状そのものが象徴化され、新たな意味を包含する新言語の登場も誘発し、より効率的な情報伝達の規範として整えられるようになるのです。また、これは社会経済に与える効果のみならず、教育現場あるいは文化芸術活動へも浸透、応用されて、新時代にふさわしい現象を支えるきっかけともなりました。とりわけ美術活動においては、根源的な伝達行為の手段として文字の形状特性の造形化と比喩的表現の展開に利用する美術家も多く存在します。

戦後現代美術の旗手、吉原治良(1905-1972)は前衛書家との交流をとおして抽象表現へと向かうことになるのですが、晩年に至るまで取り組んだ「円」への執着には、日本的象徴としての意味をどう解釈するかという主題が大きく関与しています。文字に与えられた意味とその形而上のニュアンスから認識される重層的で複雑に絡み合う日本語の特徴的な資質が、吉原の抽象表現の原点となったのです。元来文字は、絵画的な視覚伝達の媒体として汎用性のある表現として流通し、時代に即して参照と改訂を繰り返し、新たな意味を創成する極めて自由な表現手段として高められました。記号として何らかを象徴的に表す文字は、次第に視覚的な意味に目覚めることで、美術家たちのモチーフとして応用されていったのです。

絵画の意味は日本の伝統的な詩歌や古典文学にみる美学的に世相に喚起するというこれまで果たしてきた役割の範疇を越えて、日本を象徴する造形表現として、海外の美術の動きの中で日本はその復権を目指すきっかけともなりました。ポストモダンの隆盛は、こうしたアメリカ現代美術への反動とともにその独自性を発揮し、戦後の日本美術の創成に貢献したといえるでしょう。

常設展「絵画と文字×比喩と象徴 メタファーとシンボル」では、日本文化の精華として位置づけられる書と、戦後日本の比喩表現とそれを象徴する造形について紹介しようとするものです。

(美術コーディネーター 田口 慶太)

展覧会情報 絵画と文字×比喩と象徴 メタファーとシンボル

令和2年1月25日(土)〜3月22日(日)

会場

常設展示室4・5

開館時間

9:00〜17:00(入館は閉館の30分前まで)

休館日

月曜日(ただし2月24日は開館)
及び2月25日(火)〜3月9日(月)

ミュージアム・トーク

2月1日(土)、3月14日(土) 各13:30〜