白馬のゆくえ 小林萬吾と日本洋画50年
小林萬吾生誕150年を経て、半世紀ぶりに大回顧展を開催します。
香川県出身の小林萬吾(1868-1947)は、明治から昭和の戦後まで白馬会や光風会、官展などの中央画壇で活躍した洋画家です。日本洋画の巨匠黒田清輝(1866-1924)に学び、大正初頭にヨーロッパ留学、のちに西洋の模倣を超えた油彩画の日本的表現を追究し、公には東京美術学校教授、帝国芸術院会員(現東京藝術大学教授、日本芸術院会員)の経歴を遺しました。
小林萬吾は明治元年に生まれ、本年は生誕152年となります。今日、あらためて小林萬吾に光をあて、萬吾の代表作と彼の50年にわたる画業の中でめぐり合う画家たちの名作を紹介し、日本洋画の歴史とその魅力を生き生きと映し出します。
画家へのあゆみ
1868(明治元)年、小林萬吾は讃岐国三野郡詫間村(現香川県三豊市)に生まれ、少年時代は金刀比羅宮の明道学校、愛媛県松山市の官立松山第一中学校に学びました。松山で高橋由一門人の図画教師に出会い、絵画に目覚めます。1888(明治21)年に上京し、高橋由一の甥の安藤伸太郎やドイツから帰国した原田直次郎に師事したのち、1895(明治28)年に黒田清輝と出会い、黒田と久米桂一郎が主宰する天真道場に入門します。10年間のフランス留学から帰国した黒田が持ち帰った明るい外光表現は萬吾を始め、若い画学生たちを一気に魅了しました。
白馬のゆくえ
テーマにみる「白馬」とは、1896(明治29)年に黒田清輝の呼びかけのもと、萬吾を含む若い画家たちが結成した美術集団「白馬会」のことです。多感な青年期をフランスで過ごした黒田清輝にとって、日本の既存の美術会は堅苦しく、「白馬会」という自由な気風のグループを立ち上げ、技術の修練やフランス語の授業、成果を発表する展覧会開催などに取り組みました。「白馬」の名は颯爽と駆ける馬ではなく、実は庶民に親しまれていたとおろく「しろうま」に由来します。とおろくを片手ににぎやかに美術を語り合う若者たちの姿が目に浮かんできませんか。



同年、白馬会結成の後、東京美術学校に西洋画科が新設され、明治初期に設立された工部美術学校以来20年ぶりに、官立学校で西洋画実習が行われるようになりました。黒田は指導者として招かれ、萬吾は西洋画科第1期生として入学し、2年間で卒業しました。その後、同校で助手、助教、1904(明治37)年には助教授となり、留学を経て、1918(大正7)年から1944(昭和19)年まで教授として後進の育成に携わりました。
めぐり合う人々
日本洋画の黎明から成熟期にいたる変動の時代に生きた萬吾は、一生のうちにさまざまな画家や文化人にめぐり合い、しばしばその人柄や出来事を回想しており、まさに歴史の証人です。交流した人物を一部紹介すると、新旧の巨匠原田直次郎と黒田清輝。天真道場以来の仲間の藤島武二、岡田三郎助、和田英作。白馬会や東京美術学校の同志、白瀧幾之助、湯浅一郎、北蓮蔵、山本森之助、矢崎千代二や三宅克己。ヨーロッパ留学にて親しんだ石井柏亭、金山平三、藤田嗣治、安井曾太郎、小杉未醒、児島虎次郎、太田喜二郎、文学者に与謝野鉄幹・晶子、島崎藤村。萬吾が自宅アトリエに開設した美術教室「同舟舎」には次代の画家の卵が集い、牛島憲之、坂本善三、寺田政明、麻生三郎、清宮質文、駒井哲郎、野見山暁治などがいます。


1910(明治43)年 高梁市成羽美術館蔵

1915(大正4)年 兵庫県立美術館蔵

1900(明治33)年東京国立博物館蔵
新しい発見
展示会準備中、萬吾のこうした交遊歴を知る手がかりとなる、多数の萬吾宛ハガキや写真が新たに確認されました。ハガキの文面は当時の美術家たちの生き生きとした様子を伝えますが、その達筆を読み解くのは難しく、当館歴史分野の職員がその解読を支えています。また、県内の方々の協力を得て、個人宅の調査や聞き取りを行い、これまでわからなかった空白が少しずつ埋められています。長く郷土を離れた萬吾でありながら、その画家人生は、深く郷土に根ざしていたことが見えてきました。さまざまな協力者の助けがあって見出される新知見を、少しでも多く展覧会でご紹介できればと思います。名作とともによみがえる瑞々しい近代の姿をぜひご覧ください。
(主任専門学芸員 窪美 西嘉子)

展覧会情報 特別展白馬のゆくえ 小林萬吾と日本洋画50年
4月11日(土)~6月7日(日)
会場
特別展示室、常設展示室4・5
開館時間
9:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
夜間開館
毎週土曜日は19:30まで
休館日
月曜日 ※5月4日(月・祝)は開館
観覧料
一般1,200円、前売・団体1,000円
※高校生以下、65歳以上、身体障害者手帳等をお持ちの方は観覧料無料
ミュージアム・トーク
5月3日(日)、5月24日(日) 各13:30~
6月7日(日) 15:30~
ボランティアによるギャラリートーク
5月3・10・17・24・31日(日)、
6月7日(日) 各10:30~12:00