Vol54 展示室だより
野の香に愛でる日本絵画の妙
長きにわたる日本の絵画史上において、絵師たちは四季折々にうつろう穏やかな気候と風土に恵まれた自然の景観を心のうちに感受し、「日本の美」として愛でてきました。平安時代以前、仏教公伝と同時に入ってきた唐絵と称される中国絵画によって、日本における絵画の礎が築かれました。
墨筆による描線を特徴とする中国絵画は、自然が湛える大気と水、植物など自然が育むあらゆる生命の象徴として表現されています。私たちの身の回りには常に現実的な空間があるわけですが、絵画を通して自然の情景と現実を比較対照することで、根源的な理想の境地を思い描くようになります。「山水画」と呼ばれる絵画様式は、人々の心を捉える理想郷として長く描かれるようになりました。
平安時代、遣唐使が派遣されなくなって中国との国交が希薄になると、日本絵画は自立の道を歩み始め、オリジナル絵画「大和絵」が誕生します。大和絵には、季節を彩る植物が放つ芳醇な香りまでも描き留めようとするなど、観察に基づいた写生による迫真的で繊細な表現が現れます。描く対象から得る情報を整理し、必要最小限の素材と技で表現するといったプロセスには西洋美術の写実とは異なる、日本絵画の妙技を垣間見ることができます。現在では、日本画を再考しようとする若い作家が現れ、改めてその本質を見極め、現代における新たな日本絵画としての意義を見直そうとする動きに発展しています。本展では、日本絵画の壮大な歴史の一端をご覧いただきます。
(美術コーディネーター 田口 慶太)

展覧会情報
常設展示室1 野の香に愛でる 日本絵画の妙
10月22日(金)〜12月24日(金)
トーク:11月14日(日)、12月4日(土)