調査研究ノートvol.41 作品の魅力を探る — 日本画家 岩倉壽の作品から
作品が放つ魅力
コロナ禍にあって、多くの展覧会が休止や中止となり、美術館や博物館、展覧会の主催者は、オンラインで展覧会や作品を紹介しようと新たな工夫を重ねていました。こうした工夫から、展覧会場でひと通り眺めただけでは見落とし、気づかなかったものを知ることなどができ、興味深い新しい鑑賞方法が生まれたことを実感しました。とはいえ、オンライン鑑賞はたくさんのことを補いながらも、全てを賄うことができない場合もあることに気づきます。
展覧会が再開され、久しぶりに現物の作品に向き合うと、作品からあふれるエネルギーや作品を形づくる作者の目や手を追体験でき、実物や作者の思いと触れ合えることに至福を感じます。そんな現物ゆえの存在感を示してくれる作品として思い起こすのが、岩倉壽の作品です。
岩倉壽(1936〜2018)は香川県三豊市出身の日本画家で、京都を拠点に制作活動を続けてきました。画の主題を風景に求めながらも、景観を写しとる輪郭は甘く、湿潤な大気に溶けてしまいそうな、淡くはかない画風が特徴的です。岩倉の作品に向き合った瞬間、きっと人は不思議にも静寂な自然の中に取り残されたような体験をするでしょう。作品にあふれる存在感はどこから現れるのでしょうか。
画業からその魅力を探る
岩倉の人柄はたいへん控えめで、絵筆の他では多くを語らず、文筆やインタビューに遺された言葉はあまりありません。師・山口華楊の主宰する晨鳥社に参加し、晨鳥社展や日本美術展覧会(日展)に出品し続けました。一方、京都画壇に身を置きながらその伝統に安住することなく、様々な画壇との交流の場にも出品しました。高山辰雄(1912〜2007)が中心となり催した研究会「遊星会」の発表展(遊星展)への参加は、それを象徴するものでした。高山辰雄は東京美術学校(現・東京藝術大学)に学び、岩倉とは異なる道のりを歩んできた画家です。岩倉は縦横に学びながら、自己の画業を確かめつつ、他に比べ難い独自の表現を確立してきました。
作品からその魅力を探る
これまで、当館では岩倉の展覧会出品作品や記念碑的な作品を含め25点収蔵しており、さらに令和2年度には17点の作品を収蔵しました。目下、これらの作品から制作年代、画風の変遷、画材や技法などを通して、作品を探究しようとする試みの最中です。本人の文章などの二次的な資料は少なく、眼前の絵画からさまざまな情報を引き出し、多角的に考察して、岩倉芸術の源を垣間見ることができればと思案しています。作品はあるがままにあることが最適という考えもあるかと思いますが、作者がまじめに取り組んだ制作を探究し、そこに見出された真意は、私たち一般の心に通じるものかもしれない、大げさに言えば、生きる希望や期待に通じるものではないだろうかと考え、調査しています。
※遊星会は、「日展の高山辰雄、創画会の山本丘人、院展の吉田善彦が中心となり、各所属団体や年齢、立場にとらわれず、自由に楽しい交わりの場をもった」という組織のもと結成したグループで、当初より10年間であった1974年から1983年まで開催され、岩倉は後半の1979年から1983年まで参加しています。(参考「高山辰雄展」資生堂アートハウス、2007年、p.78)
(主任専門学芸員 窪美 西嘉子)


関連展覧会
常設展示室2 「岩倉 壽—心に映す風景
9月14日(火)〜12月12日(日)
※10月26日(火)〜全点展示替
トーク:9月20日(月・祝)
10月30日(土)
香川県立東山魁夷せとうち美術館 秋の特別展 「岩倉 壽—自然を掬う
9月18日(土)〜11月7日(日)
トーク:9月18日、10月9日・23日、11月6日
全て土曜日)