調査研究ノートvol.44 「高松松平家博物図譜」の調査研究 これまでとこれから
特別展関連企画「風景が物語る瀬戸内の力」とあわせて、楽しむ・知る”瀬戸内”

(香川県指定有形文化財『衆鱗図』より)
高松松平家歴史資料
高松藩5代藩主松平頼恭(1711〜71)の命により18世紀後半に完成した「博物図譜」は、魚類の「衆鱗図」4帖、植物の「衆芳画譜」4帖・「写生画帖」3帖、鳥類の「衆禽画譜」2帖の、4種13帖からなります。描かれた図の総数は2,141にもおよび、その精巧な描かれ方、色彩の豊かさは、同時代の博物図譜の中でも群を抜いています。その制作には平賀源内(1728〜79)が関わっているとされ、絵師については讃岐の三木文柳とする説がありますが、具体的な成立背景や制作過程は十分に解明されていません。これらの謎を解き明かすには、自然系・人文系に偏らない総合的な研究が必要ですが、ここでは、博物図譜の近年の自然科学分野からの調査成果、今後の展望について紹介します。



(測定箇所 図1-(1))

(測定箇所 図1-(2))
赤外線画像で黒く写る①の箇所は銅(Cu)を主成分とする顔料、白く写る②の箇所は染料で彩色されていると考えられる。
彩色材料調査の結果は、秋山純子氏提供
近年の自然科学分野からの調査成果
平成16年(2004)に高松市で開催された「第24回 全国豊かな海づくり大会」で、天皇皇后(現 上皇上皇后)両陛下が「衆鱗図」をご覧になり、生物学的研究が望まれる旨のお言葉がありました。それを受け、平成16〜17年、「衆鱗図」4帖の図について、故 上野輝彌氏(国立科学博物館名誉研究員)らによる同定作業が行われ、「衆鱗図 研究編」が刊行されました(平成17年11月20日)。そして、平成30〜令和元(2019)年度には、「衆芳画譜」4帖の図について、大場秀章氏(東京大学名誉教授)らによる同定作業が行われ、「衆芳画譜 研究編」が刊行されました(令和3年3月25日)。
また、平成28〜令和元年度には、秋山純子氏(当時 九州国立博物館、現 東京文化財研究所)の協力のもと、博物図譜の一部について、九州国立博物館へ資料を輸送あるいは当館へ機材を持ち込み、彩色材料の科学調査を行いました。本調査では、赤外線撮影で面的な特徴を捉え、蛍光X線分析による元素の把握、可視反射分光分析による染料の分析を行いました。
本調査で、赤外線画像の濃淡から彩色材料の顔料・染料を見分けることができ、「衆鱗図」と「衆禽画譜」では顔料が多く使用され、植物が描かれる「衆芳画譜」「写生画帖」では染料が多く使用されていることが分かりました。同じ色でも、実際の動植物の色に少しでも近づけるため、顔料・染料を使い分けているものと考えられます。
今後の展望
現在、「写生画帖」の同定作業が進められており、その研究編も刊行される予定です。
これまでに、様々な方面からの調査を進めていますが、「高松松平家博物図譜」には、材料、技法、絵師、成立背景など、まだまだ多くの謎があります。今後も、総合的な研究を進めて、本図譜の歴史的・文化的な価値を明らかにし、より多くの方に、その魅力を伝えていきたいと考えています。
今回、特別展「風景が物語る瀬戸内の力」の関連企画として、研究編を刊行した「衆鱗図」「衆芳画譜」について、同定の成果をもとに、当時瀬戸内の自然の中にも目にすることができたであろう魚類や植物の姿を紹介します。
(専門学芸員 高木 敬子)
※顔料:水に溶けない性質の色料。
染料:水に溶ける性質の色料。
展覧会情報
瀬戸内泰平―「博物図譜」にみる山野海のめぐみ 常設展示室1
9月23日(金・祝)11月6日(日)
ミュージアムトーク
10月8日(土),10月29日(土) 各13:30〜