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最終更新日:2026年1月9日

ミュージアムガイダンスvol.48 ユニバーサル・ミュージアムこと始め

ミュージアムガイダンス

展覧会の手話つき解説動画

博物館・美術館で「ユニバーサル・ミュージアム」という言葉を聞いたことはありますか?端的に言えば、「誰もが快適に利用できる博物館・美術館」という意味でしょうか。建築・設備のハード面、展示企画や普及行事といったソフト面で、誰にもやさしい施設であることが理想です。数年前、四国の博物館・美術館の有志が集まり「ユニバーサル・ミュージアム」をテーマに発表や意見交換を行いました。各館それぞれに自館の至らなさを反省したり、他館の活動に学んだり…。当館も聴覚支援に関する発表に勇気づけられ、初めて聴覚支援プログラムを考えることになりました。

誰もが鑑賞を深められるプログラムを目標に、聴覚障害がある方々の支援者と職員が話し合いを重ね、展覧会のあらましを解説する手話つき解説動画(以下、「手話動画」)を製作することになりました。令和3年(2021)春の特別展「空間に生きる画家 猪熊弦一郎」から始め、これまで春・秋の特別展ごとに香川県聴覚障害者福祉センターに製作を委託し、今秋には6件目の手話動画を公開します。(K)

製作現場では

手話動画の撮影は、手話通訳者・撮影者・当館職員の三者で行います。展示担当者が作成した原稿をもとに、通訳者同士で手話での表し方を何度も確認しながら収録します。

手話による会話では、相手の理解度に合わせて表し方を変えたりします。展覧会の解説では、歴史・美術の専門用語や、地域の人にしか分からない地名や人名が出てきます。幅広い人に伝わるように、それらの言葉を分かりやすい表現に言い替える等の工夫が必要です。また、展示作品の寸法も、イメージを共有するために手話で説明します。

手話の動作から気付いたのは、通訳者の表情の移り変わりです。表情といっても単純な「喜怒哀楽」の感情表現ではなく、文章の間に何とも言えない表情や頷きがあります。それらが句読点のような役割を果たし、音のないコミュニケーションに抑揚や間を生み出しています。展覧会解説の手話では「(文面としての)言葉を伝える」よりも「意味を伝える」ことを重視しています。通訳者が展覧会の内容を理解した上で、手話でその意味を伝えてくれています。通訳者の、伝えることに対する熱心な探究の姿から、私たちもより分かりやすい言葉を見つけて伝えることを意識するようになりました。手話動画の存在は、「人に伝える」ということの基本に立ち返るきっかけになっています。(I)

みんなのミュージアムをめざして

完成した手話動画は当館YouTubeチャンネルで会期中に公開しています。視聴者からは、「手話で解説する動画があると(聴覚に関係なく)分かりやすいので続けてほしい」との意見をいただきました。

いただいた意見を参考にして、画像・手話・音声だけだった動画に字幕を加える等の改良も進めていますが、課題はまだまだあります。また、聴覚、視覚、触覚等、様々な感覚を働かせる鑑賞体験の場を作っていけたらと、アイディアも広がります。

誰もが快適にミュージアムに親しんでもらえるよう、色々な意見や世の中の動きに感覚を開いて、少しずつ取り組んでいきたいと思います。(K)

(主任専門学芸員 窪美 酉嘉子・主任主事 石井 優美)

手話動画の撮影風景(モニター画面の原稿を見て手話をする様子)
特別展「空海」の手話動画(4/14~5/21公開)