調査研究ノートvol.48:神野神社 湯立神楽の再開と映像記録の活用
無形民俗文化財の映像記録
当館の前身である香川県歴史博物館は、開館準備中の平成6~10年(1994~1998)に、民俗調査とともに無形民俗文化財の映像記録事業を実施しました。国・県指定の無形民俗文化財を中心に撮影された映像の一部は、当館3階にあるビデオライブラリーで見ることができます。ここでは、丸亀市郡家町にある神野神社(神野神社正八幡宮)の湯立神楽の映像記録が、行事の再開に活用された事例を紹介します。
湯立神楽の中断と復興
香川県では、毎年10月頃の秋祭りで、3か所の神社で湯立神楽が行われます。まんのう町長尾の三島神社、丸亀市垂水町の垂水神社、そして神野神社です。県内の湯立神楽は、木材や鉄パイプでユダナ(湯棚)と呼ばれる構造物を境内に組み、その上に祭壇を設け、湯釜を設えるのが特徴です。神事はこのユダナの上に御神体を移して行われ、神楽はユダナの下で披露されます。神事の終盤、薪に火が付けられ、温まった湯に御神体などが入れられます。その後、釜に笹を入れた上から宮司が入り、頭から籠をかぶせられるという珍しい作法が見られます【図1】。

神野神社湯立神楽は文化財指定を受けていませんでしたが、平成6年が、33年に1度行われる、御神体の御衣替神事のタイミングと重なったため、記録の対象となりました(※)。この事業は、可能な限り記録を「残す」ことに重点を置く方針をとっていたため、祭礼や芸能の主要場面だけではなく、準備や相談、終了後の直会まで、行事の全体が撮影されました。それらも含めて祭りであるという民俗調査の考え方によるものです。
撮影から28年が過ぎようとしていた令和4年(2022)8月、神野神社の総代長・副総代長が当館を訪れました。令和元年を最後に、新型コロナウイルス感染症の影響で行事が中断していた令和3年に、宮司が他界されたということでした。ユダナの上での作法はその宮司しか知らなかったため、再開のために映像記録を参考にしたいというご相談でした。映像を一緒に確認したのち、湯立神楽部分の編集前のデータを提供しました。
そして、令和5年10月28日に神野神社で4年ぶりに湯立神楽が行われ、私も調査のため見学させてもらいました【図2】。総代長によれば、映像から行事次第を書き起こすのが大変で、宮司が唱えている祝詞までは聞き取ることができなかったということでした。また、従来はユダナの祭壇にお供え物を一つ一つ運んでいたのを、再開を機に最初に用意しておくよう簡略化したそうです。

映像記録の活用に向けて
今回の事例では、行事の流れ全体が映像記録に収められていたため、不十分な点はあったものの再開のために活用されたといえます。さらに、そのままを再現するのではなく、状況にあわせて簡略化したことも調査で確認することができました。
しかし、地域でこの映像記録事業を記憶している方は着実に減ってきており、今後は映像記録が存在していることの発信も重要となってきます。近年では、映像記録をデジタルアーカイブとしてインターネット上に公開する施設も増えてきています。今後、様々な公開方法を模索することで、地元への還元にとどまらない活用の道が見出されるかもしれません。
(専門学芸員 黛 友明)
(※)国立民族学博物館も昭和48年(1973)に神野神社湯立神楽を撮影しており、ビデオテークブースなどで映像を視聴することができる。
参考文献
田井静明「平成八・九年度の民俗調査の概要」『歴史博物館整備に伴う資料調査
概報―平成8年度・平成9年度―』香川県教育委員会、1999年