瀬戸内海国立公園指定90周年 まぼろしの香川県師範学校郷土館 「国立公園瀬戸内海の展望」展
香川県の博物館略史
香川県では、明治32年(1899)、栗林公園内(高松市)に香川県博物館が、県の物産や産業奨励の展示普及施設として設置されました。その後同館は、明治39年に県物産陳列所、大正10年(1921)に県商品陳列所、昭和13年(1938)に県商工奨励館と改称され現在に至ります。
その間、民間では明治38年、琴平に金刀比羅宮博物館1号館(現 宝物館)が、昭和3年には2号館(現 学芸参考館)が開館し、また坂出には大正14年、鎌田共済会郷土博物館が開館し、それぞれ現在に至ります(後者は来年、開館100周年を迎えます)。そのような中、瀬戸内海国立公園指定の前年の昭和8年に開設されたのが香川県師範学校(現 香川大学)郷土館です。現在、香川大学には大学博物館が設置(2007)されていますが、郷土館の存在や展示などの状況はあまり知られていませんでした。
香川県師範学校郷土館の常設展示
香川県師範学校郷土館については、『郷土館施設概要』(香川県師範学校郷土研究部編、1933年)が刊行されており、その内容を知ることができます。当時、文部省は郷土教育運動を推進するため、郷土教育施設費を各師範学校に下附することとなり、近森幸衛新校長が郷土館設置を推進し開館しました。
郷土館の展示は常設展示として「香川県の開化史」と「香川県の自然」「香川県の経済」で構成されており、「開化史」では偉人(人物史)を中心にその遺品や肖像・遺筆文書の写真などが展示されました。また、「自然」では地質・岩石・鉱物・化石をはじめ、魚介・動物・植物・昆虫などの標本も多数展示され、「経済」では農産物である穀物や野菜、果樹、花卉などの様々な品種標本や種子、病害虫や農薬、肥料、各産物の加工品などが紹介されました。
展示は農業にとどまらず林業や畜産、養蚕にも及び、農具や農業史の展示も行われています。人文・自然横断的な総合的な展示を目ざしたことがわかります。
画期的な動的陳列室の構想
『郷土館施設概要』には上述の常設展示の前に「高松の概観」という展示室が置かれたことが記されています。高松の今昔、交通上の高松、経済上の高松、綜合文化上の高松の地位、風光上の高松の5項目が設定され、歴史・地理・経済・文化・景観観光などの視点で、教員や学生の実地調査の成果が掛け図(地図・統計)や実物、模型などで展示されました。
郷土の実態に学び、教育に資する実践研究とその成果展示として位置づけられており、第1回は高松を取り上げたが、今後この陳列室は順次県内各地域を取り上げていくとし、調査研究の成果を反映させる展示替えを前提とした「動的陳列室」であるとしています。また、展示室に併設して郷土研究室が設けられ、学生たちが展示で学びながら研究をすすめることができるよう参考文献なども常備されました。まさに展示内容や施設、教育コンセプト等、現今の博物館施設のさきがけとみることができる施設であったことがうかがえます。
「国立公園瀬戸内海の展望」コーナーの設置
展示室の最後には「国立公園瀬戸内海の展望」を冠した展示コーナーが廊下を利用して設けられました。翌年の国立公園指定や指定予定地はすでに公になっており、展示内容は「自然の美」をテーマに教員が描いた国立公園風景地の絵画が中心でしたが、香川県の師範学校として「瀬戸内海国立公園」がその後の児童生徒たちへの教授項目として、また地域社会にとって重要な意味をもつことをふまえてのコーナー設置と考えられます。
奇しくも瀬戸内海国立公園指定90周年の今年、香川大学博物館では特別展「景観からみる『高松 海城町の物語』」(~12月21日)が開催されています。昔も今も、香川の歴史や文化を理解するうえで「瀬戸内海からの視点」が普遍的なテーマであることがわかります。
(瀬戸内海歴史民俗資料館 専門職員 田井 静明)

