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最終更新日:2026年1月9日

ミュージアムガイダンス vol.52 博物館の防虫対策

ミュージアムガイダンス

博物館資料の劣化や損傷の要因となるものには、温度や湿度の変化、照明器具からの光、地震や火災など、様々なものがありますが、今回は、その内の一つ、虫についてご紹介します。

博物館資料を加害する虫といっても、食害、汚染、えい そう営巣など、その被害は様々です。捕獲された虫が、どのような被害をもたらすのか、どのような生態なのかを知った上で、適切な対策を講じるため、昆虫博士には及びませんが、資料に害を及ぼす虫の概要を把握している必要があります。

博物館も人が存在する空間である以上、虫一匹いない状態にすることは、現実的ではありません。まずは、最重要エリア(収蔵庫、展示ケース内など)、重要エリア(展示室、写真撮影室など)、注意エリア(講堂、ロビーなど)などと区画を分け、区画にあわせた管理レベルを設定します。そして、館内各所にトラップを設置して、虫がいないかを確認し(写真1-1,1-2)、それぞれのレベルに応じた必要な対策を考えます。

博物館で捕獲される虫には、おなじみの(?)ゴキブリ、ハエ、クモのほか、シミ、シバンムシ、チャタテムシなどがいます。シミは書籍の表面をなめるようにかじりとり、シバンムシは穴をあけて食害するなど、直接的な被害をもたらす虫は、一匹捕獲されたら、その周辺も含めた詳細調査をし、対策を講じます。ハエは、食害することはほとんどないため、一匹捕獲されたからといって必要以上に神経質になる必要はありませんが、はいせつぶつ排泄物による汚損が懸念されますので、侵入口や餌になるものがないかを確認し、環境改善をはかります。

虫調査用トラップ設置の様子(展示室)
虫調査用トラップ設置の様子(収蔵庫)
館内で捕獲されたニュウハクシミ
歴史展示室内、教室の廊下で、木板の隙間まで徹底清掃する様子

捕獲される虫の数は、建物内でも季節によっても変わります。春から夏にかけて増加し、秋から冬にかけて減少します。また、建物出入口付近では夏場にダンゴムシが大発生したこともあり、出入口扉の隙間を塞ぎました。水まわりでチョウバエが発生した時には排水口を念入りに清掃し、必要に応じて殺虫剤散布も行います。近年、新たに日本でも発見されているニュウハクシミが当館でも捕獲され、その際には専門業者に、徹底清掃を委託しました(写真2-1,2-2)。

以前は、くんじょう燻蒸といって、密閉した空間にガスを投入して害虫を駆除していました。ガスは、資料に与える影響が少ないものを使用していましたが、人体や環境への影響があり、また資料へも全く影響がないわけではないため、現在は、IPM(IntegratedPest Management)・総合的有害生物管理の考えのもと、清掃や温湿度管理を基本として、収蔵資料を虫の被害から守るよう心掛けています。実は、これが基本で一番大切と分かっていながらも、時間も人手も必要で、大変な作業です。しかし、現在まで伝わり、後世にも伝えるべき大切な資料を虫害からまもるため、日々の目配りを心がけています。

(主任専門学芸員 髙木 敬子)