【複製秘話vol.03】香川県に実在する「庄屋の蔵」に収められた歴史をまるごと再現
歴史展示室の近世エリアに建つ「庄屋の蔵(しょうやのくら)」。この蔵は、香川県西部に実在する蔵を再現したものです。香川県立ミュージアムの前身である香川県歴史博物館の開館時(1999年)に、この展示室内で職人の手により実際に建てられた蔵。
実在する蔵から何を読み取り、どのように再現したのか、その複製秘話をご紹介しましょう。

庄屋(しょうや)はどんな家?
庄屋とは、江戸時代に村で中心的な役割を担っていた有力農家のことです。年貢の取りまとめや役人への報告、行政事務、争いごとの調停を行うなど、村と藩をつなぎ、村の生活と政治を支える重要な立場にありました。
香川県西部に「庄屋の蔵」のモデルとなった蔵が実在していました。開館準備中に、その家の方から「家に古いものがあるので博物館に役立ててほしい」とお話いただいたことが、この蔵との出会いでした。蔵や家を調査・記録させていただきながら、当館での収蔵を検討することになりました。
その家は、財田川の近く、田んぼが広がる地域に位置し、周囲が見渡せるような高台に築かれています。母屋(住まいの建物)のほか、もみ蔵や農具蔵など複数の蔵が残されていました。モデルとなった蔵は母屋に一番近い、道具類を収める蔵として使われていたものです。
庄屋の蔵が貴重な理由とは?
調査を進めるうちに、この蔵には、江戸時代のものから昭和期に使われていたものまで、長い歴史が蓄積されていることが分かりました。また、道具が収められていた木箱には、道具の名称、製造年、産地などたくさんの情報が書かれていて、道具を取り巻く周辺情報を知ることができる貴重な資料でした。
歴史研究としては、道具の古さだけでなく、どのようにして残されてきたのかを読み取ることが重要です。たとえば、この蔵では、よく使うものは手前に並べられ、たまにしか使わないものや大事なものは高いところや奥の方に保管されていました。つまり、生活の様子が見えてくるのです。
これらをケースの中にきれいに並べて展示してしまうと、どんな空間で、どのように残されてきたのかが伝わらないのではないか。蔵の中での残され方や配置の仕方にも意味があることを知ってもらうため、「蔵をまるごと再現する」ことにたどり着きました。
当時の構造や素材を忠実に再現
再現にあたっては、現地に何度も足を運び、構造や細部の造りを詳細に調査しました。歴史展示室の空間では実物サイズに再現することが難しく、少し小さめに調整していますが、その施工方法は、屋外で蔵を建てる場合と同じ。木造建築の木組みができる大工が担当しました。
接地面は石造りとし、床から一段上げています。地面に直接建てると蔵の中に湿気が入ってしまうため、地面より高いところに上げるということは蔵にとって重要です。来館者が入りやすいように展示室の床と蔵の入口をフラットにするという案もありましたが、造りにも意味があるとの考えから、今の高さに決定しました。
外壁は漆喰仕上げで、屋根は瓦ぶきです。漆喰や瓦には本物の素材を使っています。また、外壁の1階部分は、防火のためと装飾のために平らな瓦を貼り付けた「なまこ壁」という造りで、この瓦は特別に焼いてもらいました。
蔵が持つ機能は、博物館の収蔵庫と同じ
昔の蔵に空調はありませんが、空調の代わりに換気窓があり、季節の環境変化にあわせて空気の入れ替えをしていました。外側の厚い漆喰壁は、外気の影響を緩和するとともに、火事から収蔵物を守ります。
蔵の入口の扉は、網戸と2つの中戸がある三重構造で、外側の扉を開けても外気や虫がすぐに蔵に入らないような仕組み。展示している「庄屋の蔵」は安全のため固定していますが、開け閉めができる造りをちゃんと再現しています。
蔵の内側は木張り。湿度が高いときは水分を吸収し、乾いたときは水分を発する木の調湿機能によって、蔵の中の湿度を安定させます。
実は、蔵のこれらの機能は現代の博物館の収蔵庫にも通じる考え方です。そういった視点で見ると、歴史展示室という博物館の中に蔵があることは興味深いですね。
蔵の再現を通じて発見したこと
実物の蔵の調査により、随所に保管方法の工夫が見られることや、その時々の生活スタイルで保管方法が変化してきたことを発見することができました。「庄屋の蔵」では、木箱の一部を複製し、棚の使い方や納め方を見せるとともに、納められていたものを3D映像で見られるようにしています。
蔵が活躍していた時代は、ものを使い捨てにせずに長く使う文化が息づいています。調査では、壊れた道具の金物をまとめた籠(かご)が見つかりました。この金物を別のものに使い回すこともあれば、リサイクル業者が引き取って再利用をすることもありました。そのほか、何度も使われた紙も多く出てきました。手紙の裏側を使って習字の練習をするなど、紙の表も裏も使っていたのです。墨で真っ黒になった紙は回収されて、再生紙になっていました。現代でいうエコが、日常のライフサイクルの中にきちんと取り込まれていたことも、蔵の調査から分かったことです。
複製ならではの見どころは?
1960年前後から核家族化により、各地で蔵や屋敷を引き継いでいくことが困難になり、その数は減少していきました。そもそも蔵を持つような経済力のある家は限られていますし、実物の蔵は一般公開されていませんから、実際に入ることのできる機会は多くないでしょう。歴史展示室は、蔵の中に実際に入って「体験」することで、蔵とそこに残されてきたものを総体的に捉えられることが魅力です。
「庄屋の蔵」の横にあるモニターでは、調査記録をもとに蔵の内部を3Dで再現しており、どこに何が置かれていたのかを細かく知ることができます。また、蔵と母屋との位置関係や、この家をとりまく地理的な要素や風土といった、蔵にまつわる背景も紹介しており、ここで暮らしてきた人々の経験や知恵を垣間見ることもできるでしょう。蔵から繋がる世界にも想いをはせてみてはいかがでしょうか。
